地域工務店の未来を考えてみる
コンサルタントとして全国の地域工務店のパートナーの方々から経営や事業に関する戦略の相談をお受けする中で、集客や売上げ、採用や労務といった目先の課題に答えを出すだけではなく、少し先の世界に視野を広げて「これからの工務店の価値や役割はどうなっていくのだろうか……」という問題意識を持つようになりました。それは、コロナ禍以前からの視点でもあり、同時に、コロナ禍を経て、より、強く意識するようになったことでもあります。
このコラムでは、「新たな“地域工務店像”を考える」と題して、私、小林が自分の経験や知識に基づいて、考えていること、住宅工務店の経営者のみなさんに知っておいていただきたいことを書き綴っていきたいと思います。
「2つの経営戦略」の先にある未来
まずは、私が考えていることを共有していただくために、経営戦略を立案するためのフレームワークの1つ、「アンゾフの商品×市場マトリクス」をもとにして整理してみます。
多く企業は、「同じ市場で新規商品を打ち出す」or「既存商品で新しい市場に打って出る」のいずれかの戦略をとろうと考えるケースが多いと言えます。
「同じ市場で新規商品を打ち出す」という戦略の代表例はリフォーム事業。ただし、リフォーム業界への参入を考えても、1棟あたりの利益や時間当たりの利益を考えると、大きく拡大し続けていくイメージが持てない工務店も少なくはありません。
そして、「既存商品で新しい市場に打って出る」という戦略の例は商圏の拡大。既存エリアで成功したのちに別のエリアへと進出するというケースです。しかし、ただ単に「エリアを広げる」という考え方は、ハウスメーカーの戦略と本質的には同じです。その戦略を突き詰めていった先には、「小さなハウスメーカー」になるという未来しかありません。
地域工務店の未来を考えてみる
もともと地域工務店の価値は、全国一律で同じ商品を展開するハウスメーカーとは異なる魅力を持った選択肢を提示できることだったのではないでしょうか。また、多くの地域工務店も「小さなハウスメーカー」になりたいとは思っていません。
しかし、現実的には、「リフォームや中古流通などさまざまな方法を検討したけれど、成功するイメージが持てなかった。結局は他エリアへの拡大しか道が残されていないのではないか」……そんな結論に行き着くケースは少なくありません。価値を失ってでも、なりたくなくても目指してしまう……私は、そこに大きな課題を感じてきました。
ベテラン大工である父の言葉
ここで、長年、大工として仕事をしてきた私の父の話をさせてください。職種は違えど同じ業界で働いていることもあり、年齢とともに親子ふたりで酒を酌み交わしながら仕事について語る機会も増えてきました。父はいつも「日本のGDPの2割くらいが住宅産業だろう。俺たちは日本の経済を支えてきたんだ」と、誇らしそうに語ります。
しかし、業界の未来の話になると、「この地域で『家を建てたい』という需要は、もう頭打ちになりつつある。できることと言ったら、他の地域に進出するくらいだよな……」と、少し残念そうな言葉もこぼします。
自分たちの仕事に誇りを持っているけど、未来には明るいイメージを持てない……そんな話を聞くと、なんとも歯がゆい。そして、次第にこの状況を変えたいという想いが湧き上がってくるようになりました。
地域工務店だから発揮できる「新しい価値」を考える
こうした状況を目の当たりにしてきたからこそ、私は、地域工務店ならではの新たな価値を見出す必要があると考えています。
もちろん、すぐに新しい事業、新しい市場に参入することは簡単ではありません。戸建住宅は1棟建てると、平均で約600万円もの利益を生み出します。これは他の業界と比較しても非常に効率がいい厚利少売のビジネスモデルです。それが当たり前になっている工務店が、単価が低い事業に手を広げるというのも抵抗がある。これが、住宅工務店業界に変化が起こりにくい要因とになっています。
それでも、人々のニーズや価値観、社会のルールはどんどん変わっていきますし、それに伴って工務店業界を取り巻く状況も変化していきます。「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫」とは、必ずしも言えないのも事実です。
これまでの慣習や常識を抜きにして考えると、実は、地域工務店という業態は、多角的な事業展開がしやすい、いくつかの特徴を持っています。しかし、それはあまり知られてはいません。でも、それらの特徴を見極め、上手く活かすことで、新しい地域工務店のあり方を提示している会社も増えてきています。私たちも、これまで全国各地で地域工務店の価値を再定義するさまざまなプロジェクトを立ち上げ、試行錯誤を重ねながら取り組みを進めている最中です。