なぜ、あの会社は成功したのか―
なぜ、あのスポーツチームは、あのまちは上手くいったのか―
商材が良いから。ビジネスモデルが良いから。才能があったから。
どれも間違いではないと思いますが、彼らの成功の根底には「組織文化」があると私は考えています。
会社やチームを動かすのは、結局のところ「人」です。組織として動いていくためには、成長し続けていくためには、彼らが活躍できる組織文化や、個の力を最大化する行動指針が必要です。
私はこれを、勝ち続ける企業のDNAだと考えています。
「成功している組織のDNAを移植すれば、同じように成長できるのではないか」。その考えの元、私は組織文化のベンチマーキングを続けています。
今回のコラムでは、その手法の一部をご紹介します。
ベンチマーキングとは「基準」を設定すること
そもそも「ベンチマーキング」とは何でしょうか?
ベンチマーキングとは、簡単に言うと、成功している企業の良い事例を研究し、自社にも取り入れる経営手法の一つです。80年代~90年代にかけて行われた、ゼネラル・エレクトリック(GE)社の全社改革で取り入れられたことでも有名です。
ベンチマーキングとは、言い換えれば「理想」を見つけることだと私は考えています。
私はコンサルタントとして多くの企業の内側を覗いてきました。自社をより良くしようと考えていない企業はまずありません。
ところがその多くが、ある落とし穴にはまっています。それが「理想」を設定せずに、現状の不満に対する対策ばかりをやろうとしていること。
本来、企業が抱えている問題は、その企業ごとに異なります。
まず、「理想」があり、それに対して「現状」がある。そのギャップが「問題」として浮き上がってき、そのギャップを埋めるために実行するべきことが「課題」です。
例えば、体重100キロの人がいたとします。これは問題でしょうか?
この答えも、理想をどこに設定するかによって変わります。モデルを目指しているのであればもう少し痩せたほうが良いし、お相撲さんになりたいのであればもう少し太ったほうが良いかもしれません。
この構図を理解せずに、場当たり的に現状への不満を「問題」だと勘違いしている企業は少なくありません。そもそもの問題定義が間違っているため、改善しているようで、組織が思うような方向に進まないのです。
私はコンサルタントですが、コンサルの重要な役割の一つが「理想」をしっかりと設定して、現状とのギャップを正しくクライアントに認識させることだと考えています。
優良企業のベンチマーキングは、この「理想」を見つけるのにとても役に立ちます。
とくに組織風土というのは、どんな会社にもなんとなく漂っているものですが、あくまで「なんとなく」に終始している会社がほとんどです。しっかりと理想を設定し形作っていくことで、風土が文化に昇華され、会社の動き方が変わります。
ここからは、実際にベンチマーキングをするにあたり、気をつけたいポイントを3つに分けてお伝えします。
ポイント①
成功している会社の「今」ではなく「過去」を見る
今、ノリに乗っている会社は目立ちます。自社もあんな風になりたい。よし、ベンチマーキングをして、あの会社がやっていることをうちでも取り入れよう!
・・・
ちょっと待ってください。実は成功している会社の「今」を見てもあまり意味がありません。そこに至るまでのプロセス、10年前、20年前にやっていたことこそが、今の成功に繋がっているからです。
成功要因を知りたければ、過去に言っていたことや、行っていたことに注目してみてください。会社が伸びたヒントはそこにあります。
会社が成長し、伸びていく中で経営課題も常に変化していきます。伸びていく中であの会社は、成長の壁をどのように乗り越えていったのか?
(参考)ラリー・E・グレイナー「5段階企業成長モデル」
例えば今では誰もがその名前をしる星野リゾートも、つい20年前までは今のような大企業ではありませんでした。2009年の時点で施設数は9つだった同社が、「星野リゾート」のというマスターブランドの下にサブブランドをおくブランド戦略を推し進め、2022年現在、5ブランド69店舗まで拡大しました。
メディアではそのブランド戦略が取り沙汰されがちですが、ただ表面的に真似をして、「サブブランドを作れば成功する」とかいう、そんな甘い話はあり得ません。
本当に大事なのは、その意思決定の方向性や、それを成し得る組織を作ったことだと私は考えています。裏を返せば、そういう組織作りができていたからこそ、戦略が成功したとも言えます。
組織を作ってきた10年前、20年前の過去の姿を見るのです。
ポイント②
ベンチマーキングは異業種→同業種→社内の順に行う
ベンチマーキングを行うときは、あえてその会社と遠い異業種企業から行うようにしています。近いところからはじめてしまうと、どうしても心理的な抵抗が生まれてしまうからです。
異業種の会社であれば、詳しく知らないからこそ客観的にディスカッションをし、良いところを素直に見つけることができます。
組織風土を組織文化に昇華させていく過程で、社内で活躍する人物や部署をベンチマーキングするという取り組みも実は必要です。
しかしこれを先にやってしまうと、「どうしてあの人は評価されるのか」などとやっかみが生じ、気づかないうちに横同士でのケンカが始まってしまい、組織文化の醸成どころではなくなってしまいます。
まずは、全員が素直に学ぶ土壌を先に作ってあげましょう。
ポイント③
全員が共感できるポイントを探す
ベンチマーキングをする場合には、社員全員で行ってください。経営者が良い会社を見つけてきて、「資料を読んでおいてね」なんて伝えたところで、社員は絶対に読みません。
トップダウンで「動け!」というのも、マネジメントの一つの方法ではありますが、目的と目標を共有し、社員一人一人が「やるべきだよね」と自分で気づいて動く方が圧倒的に早く強いのです。
ベンチマーキングでも、社員全員で資料を見たりワークショップを行い、全員が共感できるポイントを探していきます。
しかし、互いに共感しあえるものが見つからない状態からのスタートだったり、全社員が集まることに反対があったりと、ここが実はすごく難しいポイントです。
書籍『ビジョナリーカンパニーⅡ』に、弾み車という例えが出てきますが、まさにその通りで、組織を変えていく、最初のひと押しは思った以上に大変です。
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派手な施策に目移りせず、本質に目を向ける
人々の価値観も多様化する現代、組織の文化も時代に合わせてアップデートしていくことが求められています。
その近道が、成功している企業からベストプラクティスを学ぶこと。
しかし、組織文化のベンチマーキングは、はっきり言ってすごく地味です。実際に成果が出始めるまでは、「やってて意味があるのかな」と不安になることもあると思います。
実際、僕自身もクライアントから「もっと派手な(分かりやすい)マーケティング戦略やビジネスモデルなどをやりたい」と言われることもあります。
しかし、繰り返しますが組織を作るのは「人」。どんな大企業もそれを裏で支えているのは人です。組織の文化づくりに乗り出せるかどうか。それは経営者の胆力が試されている場面でもあります。
さて、次回以降のコラムでは、私がよく取り上げるベンチマーク企業の事例をご紹介します。
株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔